Saigenji──ブラジル音楽を軸に、ポップスの新たな地平を切り拓くシンガー・ソングライターの新作

 ブラジル音楽や南米のフォルクローレを基軸に置きながら、音の海を自由に泳ぎ渡るように表現していくシンガー・ソングライター、Saigenji(サイゲンジ)。  1975年に広島で生まれた彼は、沖縄〜香港〜沖縄〜東京と移り住みながら育った彼は、9歳の時に「コンドルは飛んでいく」に感銘を受けたことでケーナを吹き始めたことで、フォルクローレをはじめ南米の音楽を身近に感じるようになった。大学生の頃にMPBやボサノヴァ、サンバなどブラジル音楽の魅力に取り憑かれて、ギターと歌をはじめたという。2002年にアルバム『Saigenji』でデビューすると、しなやかなリズム感から繰り出される卓越したギター・プレイと、緩急自在なスキャット、そして伸びやかな歌声が大きな反響を呼んだ。  以降、カエターノ・ヴェローゾやガル・コスタ、アート・リンゼイなどを手がけたMPB新時代の旗手=カマル・カシンをプロデュースに迎えてリオデジャネイロ録音を敢行した『ACALANTO』(2005年)、デビュー10周年を記念して制作された弾き語り一発録音アルバム『ONE VOICE, ONE GUITAR』(2012年)など、これまでに8枚のオリジナル・アルバムをリリース。ライブ活動も精力的に展開し、日本国内はもちろんパリや韓国、東南アジアなど海外公演を敢行し、高い評価を集めている。また、MISIA、MONDO GROSSO、冨田ラボ、アン・サリーをはじめ、数多くのミュージシャンの作品にゲスト・ボーカルやギタリストとして参加してきた。  6年ぶり9作目のオリジナル・アルバムとなる『Compass』は、Saigenjiと同世代で..

夕陽のガンマン〜悪を裁くのは正義でもヒーローでもない。悪を始末するのは“成熟した流れ者”だ。

夕陽のガンマン〜悪を裁くのは正義でもヒーローでもない。悪を始末するのは“成熟した流れ者”だ。

いつの時代にもやりたい放題の悪というものが存在して、それが謙虚に慎ましく暮らす人たちの脅威となる。正義を掲げて対抗する者もいるが、そのほとんどが邪悪な力によって虫けらのように片付けられてしまう。そんな時、待望のヒーローが突如現れて何もかもを解決する……これまで多くの映画やドラマやコミックで描かれて来た世界だ。勧善懲悪的な結末に、観る側のどんよりとしていた気分も晴れ渡る。 でも現実はそうだろうか? 絵に描いたようなヒーローなど存在するわけがないし、悪特有のずる賢さのもとに、次々と正義が買収されていくのは歴史が証明している。例えば、立派な志を抱いた若き政治家がやがて権力と金に溺れていく羽目を見てきたはずだ。正義が悪に生まれ変わるのは別に珍しくもない。 ではこのどうしようもない世の中に根付く悪を、一体誰が対処するのか? 『夕陽のガンマン』(FOR A FEW DOLLARS MORE/1965)は、そんな疑問に答えてくれる。悪を裁くのは正義でもヒーローでもない。悪を始末することができるのは“流れ者”だということを。50年前のこの映画が教えてくれる。 この作品はイタリア製の西部劇、いわゆる「マカロニ・ウェスタン」と呼ばれるものの中でも屈指の名作として再評価されてきた。60年代後半には年間約30本以上もの「マカロニ・ウェスタン」が量産されていたというが(本場ハリウッドでも年間10数本)、そのブームのきっかけとなったのがこの本作だった。 後に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を残すことになる巨匠セルジオ・レオーネのキャリア初期の傑作でもある。クローズアップやフラッシュバックを多..

Saigenji──ブラジル音楽を軸に、ポップスの新たな地平を切り拓くシンガー・ソングライターの新作

キース・リチャーズが祖父との幼少時代の想い出を綴った心温まる絵本『ガス・アンド・ミー』

キース・リチャーズが絵本を出版したのが2014年9月のこと。あのキースと絵本? かなり意外だが、本当の話だ。何度も手に取って開けたくなる魅力もあるが、ロックスターによる絵本も珍しいので改めて紹介したい。 『Gus&Me』(ガス・アンド・ミー〜ガスじいさんとはじめてのギターの物語)と名付けられたその絵本は、キースの母方の祖父であるセオドア・オーガスタス・デュプリー(愛称ガス)との幼少時代の想い出を綴ったもの。 キースの自伝『ライフ』のエピソードをもとに、画は実娘のセオドラ・リチャーズが担当。彼女は実際にキースのイギリスの実家ダートフォードに赴き取材して、当時の写真を参考にしながら描いたそう。 偉大なるロックバンド「ローリング・ストーンズ」のギタリストであり、数々の反体制的な言動でロックスターのイメージを創った男、キース・リチャーズの“原風景”が聴こえてくる心温まる一冊となった。 キースは祖父との想い出をこんなふうに語っている。 俺が音楽を愛するようになった、その多くはガスじいさんのおかげだ。彼は女に囲まれて暮らしていた。7人の娘がいたんだ(キースの母親ドリスもこの中の一人)。ガスはよく言っていた。「7人の娘だけじゃないぞ。妻も入れると8人だ」 キースにとっての一番最初の音楽的アイドルは、“ガスじいさん”に他ならなかった。ガスはパン職人であると同時に、ピアノ、ヴァイオリン、ギターといった楽器も弾けたのだ。若い頃はダンスバンドで腕を磨く日々も過ごした。また、ユーモアのセンスの持ち主でもあり、友人たちに挨拶する時は「よお、一生マヌケでいるんじゃねえぞ」が口癖だった。 キースが生まれ..

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フィッシュマンズの完璧なまでのラスト・ライブを閉じ込めた『98.12.28 男達の別れ』

1995年から97年の間に、『空中キャンプ』『LONG SEASON』『宇宙 日本 世田谷』の「世田谷3部作」と呼ばれる3枚のアルバムを、たて続けにリリースしたフィッシュマンズ。 彼らは翌1998年、それらが生み出された世田谷にある「ワイキキ・ビーチ・スタジオ」を、建物の賃貸契約の期限により閉鎖することとなった。 また時を同じくして、それまでフィッシュマンズのサウンド・エンジニアリングを一手に引き受けていたZAKが、フィッシュマンズから離れることとなる。 そんな1998年のフィッシュマンズは、8月にライブ・アルバム『8月の現状』をリリースした後、アルバム用ではなくシングルのためだけにレコーディングした『ゆらめき IN THE AIR』を、12月に8cmシングルとしてリリースしたのみだった。 そして、12月のツアーを最後にベースの柏原譲が脱退することを受けて、「男達の別れ」と名付けられたフィッシュマンズのライブ・ツアーが、12月17日にスタートする。 名古屋、大阪、福岡、東京の4都市を回る6つの公演は、翌年にヴォーカルの佐藤伸治が急逝したことに伴い、事実上彼らのラスト・ツアーとなってしまった。 このツアーの最終日、12月28日に赤坂BLITZで行われたライブの模様が、2枚組のアルバム『98.12.28 男達の別れ』に収められている。 この時点ではまだ誰もこのライブが、佐藤伸治のフィッシュマンズとしての最後のライブになるなどとは思ってもいなかった。しかしこれ以上はないと思えるほどの、彼らの目指していた完璧なステージが、ここに繰り広げられている。 生前に佐藤がインタビューで語っていた..

Saigenji──ブラジル音楽を軸に、ポップスの新たな地平を切り拓くシンガー・ソングライターの新作

ニューヨークの夢

クリスマス・イヴの夜だっていうのに 酔いつぶれてトラ箱の中 先に檻の中に入ってた爺さんは 「もう、飲めねぇよ…」と俺に向かってつぶやいた 爺さんが歌い出した「The Rare Old Mountain Dew」 俺は歌声に背を向けて眠りについた そうしたら お前の夢を見たんだ ポーグスが1987年に発表した「Fairytale of New York(ニューヨークの夢)」は、ボーカルのシェイン・マガウアンと、女性シンガーのカースティ・マッコールのデュエットによるバラード。希望を胸に抱きニューヨークへやって来たアイルランド移民の夫婦を主人公にした、ストーリー仕立てのほろ苦いラブ・ソングだ。リリースされた1987年にはアイルランドでチャート1位、UKチャートでも2位を記録し、その後もクリスマス・ソングの定番として愛され続けている。 この曲の歌詞には、古いフォーク・ソングのタイトルが2曲登場する。「The Rare Old Mountain Dew」と「Galway Bay」、どちらもアイルランドで歌い継がれている伝統的な歌だ。夫がトラ箱の中で聴く「The Rare Old Mountain Dew」は、アイルランドの豊かな自然と、そこで抽出される至高のひとしずく(Mountain Dew) すなわちウイスキーについて歌った曲。酒とギャンブルで身を崩した男が、未来の自分の姿を表しているかのような老人の歌声から、若かりし日の夢を思い出す。同じ頃、寒い夜に一人でろくでなしの夫を待つ妻も、出会った頃の甘い日々を振り返っていた。そんな時、街のどこかから聴こえてくるのが、合唱隊が歌う「Gal..

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